社会や家族、他者との「関係性」にアプローチするー公認心理師・本多清見さんのカウンセリングと精神科訪問看護の可能性

「人間関係がうまくいかなくて、自分を責めてばかりいる」

「家族のなかで暴力があるけれど、自分が悪いのではないかと思ってつらい」

そんな悩みを抱えたことはありますか?

「悩みを専門家に打ち明けてみたら、自分の課題ばかり見えてきて、さらにしんどくなってしまった」という人もいるかもしれません。

今回ご紹介する本多清見さんの勤める「原宿カウンセリングセンター」では、社会や家族、他者との「関係性」のなかに治療があるという考え方のもと、カウンセリングを行っています。上のような困りごとのある方からのご相談も多いとのことです。

本多さんのこれまでのご経験や、原宿カウンセリングセンターの活動について、対話を大切にするメンタルケアサービス「コモレビ」代表の森本真輔がお話をうかがいました。

原宿カウンセリングセンターの本多清見さん(公認心理師・臨床心理士)

就職活動も、新卒の会社も、まったくうまくいかなかった。心理学を学ぶため海外へ

ーー原宿カウンセリングセンターで働きはじめる前のことを教えてください。

本多清見さん(以下、本多):大学時代、たまたま臨床心理士が講師を務める授業をとり、そのとき初めてこの職業を知りました。当時はまだ公認心理師の資格はなく、心理系で一番知られている資格は臨床心理士でした。授業はおもしろかったんですが、大学院進学までは考えませんでした。

就職氷河期で、就職活動はまったくうまくいきませんでした。働いたことのない会社なのに、面接で「何がやりたい?」と問われても、どう答えたらいいのかわからず、みんながすらすらと答えられるのに驚いていました。

そのなかで幸運にも生命保険会社の事務職で内定をもらいました。でも、ひと言でいうと私は会社員としてまったく「使えなかった」んです。ほんとうに事務の仕事ができませんでした。上司も困っていたと思います。色々と指導してくださったのに、当時の私は「別に選んで入ったわけではないし…」と後ろ向きな姿勢でした。今はとても反省しています。

ーー自分の側にバリアがあったんですね。

本多:すごくあったと思いますし、「あそこでもう少し一生懸命やったらよかった」と後悔しています。結果的に会社を辞めて、ニューヨーク大学へ行きました。

小さいころから「海外への憧れ」がありました。群馬県の田舎町で育ったんですが、コミュニティが小さく、所在のなさを感じて過ごしていました。高校で市内の進学校へ行き、大学で上京して、だんだん息がしやすくなっていきました。そういう経験から多様な人が交わる開かれた環境へ行くことに憧れていきました。

ーー大学で「面白いかも」と思った臨床心理学を海外の大学院で2年間学ばれたんですね。かかわってきた分野や生活を変えるのは勇気のいる決断でしたか?

本多:会社員時代、ここでうまくやっていく、長く働いていくイメージが持てずにもがいていたので、むしろホッとしました。大学の同級生や先輩・後輩たちには企業人として優秀な人がとても多くて、それに対してすごく憧れと尊敬を感じると同時に「自分はそのようにはなれない」という気持ちもあったので、そこから脱することができて安心したんだと思います。

原宿カウンセリングセンター入社 「関係性」に注目してトラウマ臨床に取り組む

ーー日本に帰ってきてから就職活動をされたんですか。

本多:2006年に大学院を修了して帰国し、心理職として働ける場所に電話をかけまくりました。そのなかで「面接に来てください」と言ってもらったのが「原宿カウンセリングセンター」でした。

ーー原宿カウンセリングセンターといえば、信田さよ子さんが設立されたところですよね。信田さんは『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』など多くの著書をおもちで、私も拝読しています。

本多:当時は信田が心理領域でそんなに有名な人だということすら知りませんでした。そんな、なんの経験もご縁もない私にも、色んなトレーニングの機会を設けてくれました。クライエントとの初回面接をさせてもらうこともできましたし、今考えるとよくあんなにさせてもらえたなと思います。

原宿カウンセリングセンターでは、家族関係の悩み、人間関係の悩み、アディクション、暴力など、実にさまざまな困りごとのある方が来院されます。そのなかで私は、アダルト・チルドレンの問題を取り扱いはじめて、家族のなかのさまざまな問題がトラウマになりうるということから、トラウマ臨床への関心が特に強くなりました。

ーー2007年から現在まで15年ぐらい勤務されてるんですね。その過程でクライエントの悩みやニーズは変わってきていますか?

本多:私が入職する以前からの変遷を、伝え聞いた話も含めてですが簡単にお話しますね。まず、信田が独立開業した1995年当時は圧倒的にアディクション(依存症)の相談が多かったようです。当時のアディクション臨床は、「酒が暴力を起こさせる」、逆にいえば「酒をやめれば暴力もやむ」という考え方が主流でした。被害者も、たとえば酒を飲んでいるパートナーに怒りながらも酒を買ってきちゃうというように、「共依存という関係性に依存している人々」として認識されていました。つまり、家族間暴力の問題も扱われていたものの、多くはアディクションの枠組みのなかで理解されていたんです。

しかしそこからケースが蓄積されていくなかで、家族間暴力の問題は、アルコール依存から生じるものばかりではないことがわかってきました。つまり、DV(ドメスティック・バイオレンス)の被害/加害という枠組みで捉えられるようになったんです。この間、DV防止法(2001年)など、公的な議論や対策も進んでいきました。

こうしたなかで、原宿カウンセリングセンターでも、家族間暴力によるトラウマの問題を扱うことが増えてきました。センターでプログラムとして運営している当事者グループにも変化がありました。もともと「KGIII(共依存グループ)」という名で運営していたアルコール依存の夫をもつ妻たちのグループがあるのですが、ある時期から「Abused women Group(AG)」つまり暴力被害女性のグループという名称に変えたそうです。

それによって、当事者の話す内容にも変化があり、それまで「うちの夫が断酒して」「1週間目なんですけどまた飲みそうで」という話が中心だったのが、いわゆる暴力の被害の話が多く語られるようになったそうです。

ーー同じ臨床心理学でも、本人のあり方に焦点をあてるものと、社会・家族・他者との関係性をみるものとがありますよね。

本多:原宿カウンセリングセンターでは、クライエントを取り巻く「関係性」に着目して支援を行っています。例をだすと、対人関係がうまくいかないケースで、本人の課題であるだけでなく、たとえば虐待を受けたトラウマとしてみることができる場合。家族の中で緊張して過ごしていていつも顔色をうかがってしまう癖がついてしまった、それを他者との関係でも引きずっていると捉えるんです。

ーーその人の歴史があるんですよね。

クライエントが「来る」カウンセリングルームと、利用者の家に「行く」精神科訪問看護

ーーコモレビの第一印象を聞かせてください。

本多:まず「利用者さんの家に行くんだ」というのが印象的でした。支援において対話を重視している点など共通点も色々あると思うのですが、「行く」のと「来る」のはやっぱり違うというか、私たちにはできないアプローチだなと思いました。

ーーどちらもメンタルヘルスに関する仕事ですが、カウンセリングルームにクライエントが来るのと、精神科訪問看護のように利用者の家へ行くのとでは、違いがあるものでしょうか。

本多:カウンセリングの怖さの一つに「50分のセッションでのクライエント」しか知らないのに、その方を深く知った気になってしまうことがあります。でも知人の紹介で森本さんたち訪問看護の方と知り合ってから、クライエントには「セッション50分間以外の面もある」と、面接室の外にある日常を、より想像することができるようになりました。

カウンセリングという空間では、クライエントさんは、つらかった体験や大変な状況について語られることが多いです。そうしたなかでも、クライエントさんはそれぞれが自分にできる方法で日々の暮らしを営まれているんですよね。たとえば、辛い気持ちになったり眠れなかったりするけど、それでも1日3食とることはできている、とか。そういう、ご本人がもともと持っている力みたいなものを感じられました。

ーー支援するときの環境も違いますよね。面接室は整然としていて刺激が少ないけれど、家だと利用者それぞれの生活の場なので、そこにはいろいろな物があります。空間の違いもあるのかなと。

精神科訪問看護で「本人が」できることを増やす

ーーコモレビと連携できそうなケースはありますか。

本多:たとえば、家族間の暴力があり、そのまま同居していると心身への危険が大きいため、緊急避難として別々に住むことになる場合があります。それまで生計を共にしていたのが急にひとり暮らしになるわけです。そういうときに、精神科訪問看護や家事支援、ヘルパー等の制度を利用できると良いと思います。

生活をサポートしてくれる人がいないと、孤立感から結局家族に頼ってしまい、そこからまた距離が縮まってリスクの高い状態に戻ってしまうことも少なくないんです。こうした場合に精神に特化したコモレビさんのような訪問看護と連携できると良いですよね。私たちはクライエントの「家に行く」という支援ができないので。

ーー訪問看護が入ることで「本人が」できることを増やせます。また、「家族に連絡する」以外の引き出しをご本人と一緒につくっていくことができるのかなと思います。

おわりに

「就職活動の面接でうまく答えられなかった」「会社員時代は仕事ができなかった」と振り返る本多さんですが、その会社を辞め新しい環境に飛び込んで学んだことが今のお仕事につながりました。日々カウンセリングに訪れる方々の話に耳を傾け、その心の檻を解くために一生懸命働くなかで着実に経験値と実績を積み上げていらした姿に、勇気や希望を感じた方もおられるのではないでしょうか。最初の一歩につまずいてしまったとしても、ほかにも選択肢は見つかるはずです。

コモレビでは、対話を通じた支援をおこなっています。精神科訪問看護の制度のもと、看護師や精神保健福祉士といった資格をもつスタッフが利用者さんの自宅を訪ねて利用者さんの「ありたい姿」の実現に向けてサポートします。利用者さんとじっくり対話できるよう、1回の訪問時間は40分としています。医療保険が適用されるため自己負担は3割、「自立支援医療」を申請すれば1割負担で利用できます。(生活保護を受給中の方であれば原則として自己負担なくご利用いただけます)

コモレビは、本多さんをはじめ公認心理師や複数の医師とも連携して、利用者さんが安心できるサービスの提供を目指しています。「自分の困りごとを聴いてほしい」「だれかとじっくり話してみたい」という方はぜひ一度コモレビまでお問い合わせください。

執筆: 黒木萌
編集:石川れい子、 鈴木悠平

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コモレビ自宅訪問型のメンタルケアサービスです。現在、都内かつ新宿駅および練馬駅から片道30分圏内にお住まいの方を対象としております。

メンタルヘルスを専門とするスタッフが、ご利用者様の自宅に直接うかがい、お話をさせていただきます。心身の調子が悪く外出がむずかしい場合でも安心してご利用いただけます。

1回約40分。精神科経験のある看護師や、精神保健福祉士などの国家資格を持つスタッフとの対話・相談を通して、日々のさまざまな悩みや不安に向き合い、解決を目指すことができます。

サービスのご利用にあたって、まずは無料の利用面談を承っております。利用面談では、お悩みやお困りごとなどをお聞かせ頂く中で、どのような形でコモレビがお力になれるか一緒に考えていきます。

また料金体系、利用可能な地域、医療保険や各種制度の適用、その他サービスに関するご不明点や気になることがあれば、以下よりお気軽にお問い合わせください。

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