こころの悩みを抱える人が、ゆっくりと対話できる場をー精神科医・森川すいめいさんが取り組むオープンダイアローグと、精神科訪問看護への期待
「だれかにじっくり話を聞いてもらえたなら心が軽くなるかもしれないのに」
そう思ったことはありますか?
精神的につらいときに、ひとりで考え込んでさらにしんどくなってしまった。専門家に話を聞いてもらおうと精神科や心療内科を受診してみたけれど、ゆっくり話を聞いてもらうことはできなかった。そういう経験をお持ちの方は少なくないかもしれません。
患者さん本人やご家族などの関係者とともに対話をつづけていこうと、北欧で発祥した「オープンダイアローグ」を日本で実践している人たちがいます。
今回はその一人、精神科医・森川すいめいさんのお話をみなさんにご紹介します。
既存の医療に違和感を抱くなかでオープンダイアローグと出会った
2023年6月なかば、私たちは森川さんの勤める「ゆうりんクリニック」を訪れました。
屋外で撮影をかねて一緒に散歩をしたあと、クリニック内でさっそくインタビューをはじめようとしたところ、缶コーヒーを買ってきてくださった森川さん。場の緊張を和ませてくださり、ゆっくりとインタビューがはじまりました。
ーー精神科医になろうと思ったきっかけを教えてください。
森川すいめいさん(以降、森川):医者になったのは32歳のときでした。でも、今も「精神科医」になったという認識があまりないんです。
きっかけは学生のころに起きた阪神淡路大震災でした。友人が兵庫県に住んでいたので、震災発生から1週間後に現地へ行きました。避難所に泊まることもありました。
当時は分かっていなかったのですが、振り返ってみると、あのときに住まいがない人や住まいがあっても安心して毎日を過ごせない人たちがいることを、肌で感じたんだと思います。
その後、路上生活をされている人たちの支援活動に入っていく中で、この人たちの力になるような選択をしようと考えました。結果的に医者になって、精神科医になっていったんだろうなと。
ーーオープンダイアローグに出会う前のことについて教えてください。
森川:以前と今とを自分の中で比べてみると、以前は、患者さんに関する情報がすごく少ないなかで、私の持っている少ない経験を照らし合わせて「答え」を出そうとする仕事をしていたように思います。
組織や病院がつくったルールに患者さんたちを当てはめていくことに違和感ばかりありました。診療時間がものすごく短かったり、隔離室の運用だったり、疑問をたくさん抱いていました。
そんな日々のなかで、友人が「オープンダイアローグ、知ってる?」と声をかけてくれたんです。名前を聞いて、「『オープン』という言葉が好きだな」と思ったのが第一印象でした。
「オープン」とは、クライアントである本人やご家族などの関係者に対して開かれているという意味なんです。その人のいないところで勝手に物事が決まらないようになっています。
2015年、私はフィンランドへ行って、オープンダイアローグの生まれたケロプダス病院を見学しました。そして、帰国した翌日から私たちのクリニックにもオープンダイアローグを取り入れました。
外来でもゆっくりお話を聴く時間をつくり、訪問診療や訪問看護も織り交ぜて対話を続ける
日本のクリニックでオープンダイアローグを実践しているところは、今でこそ少しずつ増えてきましたが、当時はほとんど例がありませんでした。そのなかで、森川さんはどのように実践していったのでしょうか。
ーーフィンランドと日本では医療制度が違うなかで、どのようにオープンダイアローグを導入されたのでしょうか。
森川:日本の精神科外来の診察は、5分から15分という短い時間のことが多いと思うんです。医療保険の制度内では、それより長い診察をすると、経営が成り立たないんです。
でもその短い時間のなかで、患者さんが苦悩を話しきることはできません。
だから、私たちのクリニックでは、外来でゆっくり時間をつくっています。ほかに訪問看護や訪問診療、自費の部門が織り交ぜながら経営バランスを取れるようにして、外来の部門は赤字だと割りきっています。
どの部門でも、開かれた対話を中心とするという点は、芯を通して活動しています。
精神科訪問看護でのオープンダイアローグの実践
常にオープンダイアローグの思想に基づいて、日々、利用者さんと接するようにしていることが森川さんのお話から伝わってきます。
私たちコモレビでも、精神科訪問看護という枠組みをいかして対話を実践しています。森川さんには、サービス立ち上げ当初からご相談に乗っていただきました。
ーーコモレビの立ちあげについてどんなふうに見てくださっていましたか。
森川:当時は、オープンダイアローグを日本の制度で、経済的に余裕のない人たちにも行っていくとしたら、訪問看護という枠組みを使ったら良さそうだな、と思いはじめていた時期でした。
そう思うのと実際に行動することは違うので、コモレビさんにはとても興味を持っていました。実際お会いしたら、いい人たちでしたし、希望を抱きました。
ーーコモレビに対する期待があれば教えてください。
森川:利用者さんからすると、医者や看護師から上から目線で話されるよりも、対話的な人たちに来てもらいたいと思うんです。コモレビの利用者さんが「あの人たちは無害だ」と話すのを聞いたことがあります。
コモレビは「だれかと話せたら楽になる」ということをとても大事にされているように感じています。
森川さんのインタビューからコモレビへの期待が伝わってきて、私たちも身が引きしまる思いです。
コモレビでは、精神科訪問看護の制度のもと、看護師や精神保健福祉士といった資格をもつスタッフが利用者さんの自宅を訪ねて利用者さんの「ありたい姿」に向けた支援に取り組んでいます。利用者さんとじっくり対話できるよう、一回の訪問時間は40分としています。医療保険が適用されるため自己負担は3割、「自立支援医療」に申請すれば1割負担で利用できます。
森川さんのクリニックやほかの医師とも連携して、利用者さんが安心できるサービスの提供を目指しています。「自分の困りごとを聴いてほしい」「だれかとじっくり話してみたい」という方はぜひ一度コモレビまでお問い合わせください。
執筆:黒木萌
撮影:鈴木江実子
編集:鈴木悠平
執筆協力(文字起こし):前田美咲
メンタルケアサービス
「コモレビ」とは
コモレビは自宅訪問型のメンタルケアサービスです。現在、都内かつ新宿駅および練馬駅から片道30分圏内にお住まいの方を対象としております。
メンタルヘルスを専門とするスタッフが、ご利用者様の自宅に直接うかがい、お話をさせていただきます。心身の調子が悪く外出がむずかしい場合でも安心してご利用いただけます。
1回約40分。精神科経験のある看護師や、精神保健福祉士などの国家資格を持つスタッフとの対話・相談を通して、日々のさまざまな悩みや不安に向き合い、解決を目指すことができます。
サービスのご利用にあたって、まずは無料の利用面談を承っております。利用面談では、お悩みやお困りごとなどをお聞かせ頂く中で、どのような形でコモレビがお力になれるか一緒に考えていきます。
また料金体系、利用可能な地域、医療保険や各種制度の適用、その他サービスに関するご不明点や気になることがあれば、以下よりお気軽にお問い合わせください。
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